【人魚の眠る家】
幼い娘がある日、水の事故により、脳死だと告げられる。
偶然にも夫は障がいを持つ人を技術的に助ける研究をしている会社の社長で、
先端技術によって自発呼吸できるようになったり、
脳の信号を偽造して手足を動かしたりする事ができるようになるが、
果たしてそれは、生きていることになるのかどうか?
とても難しい問題だと思います。
私の夫は脳死ではなく、
閉じ込め症候群と呼ばれるものでした。
目を開けてはいますが、自分の意思で何かをすることは全くできませんでした。
私の意思で延命したわけではなく、
救命した医師によってそうなったはずなのですが、
医師によるといつのまにか私が無理に生かしているような口ぶりに…
それはもう済んだことなのでいいのですが、
やはり夫のことも、まるで死んでいるかのように思う人もいて…
夫の家族ですら。
目が開いているものの、身動きしない夫を見るのが忍びなくなるようで、
どう接していいのかわからないんでしょう。
転院してからは、ほとんど見舞いに来る人もなく。
生きている人を相手するみたいな私の態度は、
不気味がられていたのかもしれませんね。
一年9ヶ月、そんな状態で、
私も一時は在宅で看たいと思いましたが、
まだ息子は小さく、
夫だけにかかりきりになるのが、
果たして家族全員にとっていいことなのかどうか…
亡くなった時は、正直ホッとしました。
永い永いお別れをしてきたので、
思い残すことはなかったです。
夫もやっと休めることができたんじゃないかと。
だから、父が脳に細菌か何かが入って髄膜炎を起こした時、
強い薬をばんばん使って、助かっても重い障害が残ると言われたので、
母も兄弟の誰も延命治療は希望しませんでした。
夫が死ねずに、痩せ衰えて死を待つだけの状態を知っているので。
夫も、映画みたいに倒れたときのままの姿で寝ていたなら、
生きていて欲しいと思ったのかなぁ…
でも終わりが見えないものって、
ものすごく辛いんです。